エンプティ・エンプティ

 そこにはたくさんの木々が集まっていました。
 どれもこれも、一つとして同じ木はありません。
 そして、一つとして完全な木はありませんでした。

 

 

プロローグ 三日前

 

 雨がしとしとと降っていた。人影がその中を走り抜けてゆく。全部で四つ。
 彼らは異邦人だった。招かれざる客。
 逃れる先もなく、彼らは駆ける。何処かに安住の地がある。そう信じてでもいるかの様に。
 彼らは一人、また一人と道を分かれてゆく。

 

 ・・・・・・そして彼らを追うものもまた、分かれていった。

 

 

 ざあ・・・ざあ・・・。
「ん」
 家でパソコンの画面を眺めていた麻生信二は顔を上げた。窓の外を見ると、先ほどまでの小雨はいつの間にやら土砂降りになっていた。
「誰かいるのかな・・・」
耳のいい信二は雨音に混ざって妙な音がしているのに気づいた。よく見てみると、部屋から漏れる明かりに小さな影が映っている。人・・・だろうか。
「君は」
 信二の声にそれは一瞬びくりとし、それからおずおずと顔を上げた。・・・瞬間。
 それが可愛らしい少女であると信二が認識したのと同時。彼女は、ヒッ、と声を上げた。
 そして奇妙な動きで路地の裏へと姿を消してしまった。まるで首に見えない縄でも掛けられて、引っ張られでもしたかの様に。
 ・・・正にその通りであるとは、一般人である信二に分かるはずもなかった。

 全ては彼の想像の及ばないところで起こっていたのだ。

 

 

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